「日の丸液晶」ジャパンディスプレイが没落した理由

中古型液晶ディスプレイ大手のジャパンディスプレイ(JDI)が石川県白山市の工場をシャープとアップルに売却する事が決定したとの報道がありました。(2020/8/28付)

JDIに浅からず縁がある筆者としては、ひとまず買い手が付いた事に対して「ホッとした」というのが本音です。

それと同時に、日本の液晶技術の粋を集めた同社が、どうしてこのような事態に陥ってしまったのか、少し悔しい気持ちもあります。

今回は、個人的に思い入れのあるジャパンディスプレイがどうして、このような悲しい結末を迎えてしまったのか、自分なりに考えてみました。

ジャパンディスプレイとは

ジャパンディスプレイとは、日立、ソニー、東芝の中古型液晶パネル事業を統合し、経済産業省が立ち上げたINCJ(旧産業革新機構)の支援の下、2012年に誕生した会社です。

なぜ『日の丸液晶』と呼ばれたのか?

一般には、日立、ソニー、東芝の3社の事業統合された会社と簡略化して説明される事が多いのですが、その実態はもっと複雑です。

以下に、ジャパンディスプレイの沿革を自分なりにまとめ、図示してみました。

JDIの設立までの沿革(筆者作)

見てわかる通り、日立、東芝、ソニーだけでなく、様々な会社の液晶事業が統廃合を繰り返し、最終的にジャパンディスプレイに集約されているのです。

この中に含まれていないのはADI(旭硝子、三菱の合弁)を源流とする三菱や京セラ、天馬に買われたNEC、日本で初めて液晶を商用化したシャープくらいです。

※DTIが奇美電子に渡って、ソニーに買い戻される流れもうまく表現したかったのですが、イノラックスとだけ書いてます。

JDIには、かつての日本の主要な液晶産業のプレイヤーが多く参画しており、

さながらディスプレイ業界のアベンジャーズ的な存在だったのです。(と、勝手に筆者は思っていました。)

これがジャパンディスプレイが『日の丸液晶』と呼ばれた理由であり、名実ともに日本の液晶技術の粋を集めた会社だったのです。

ジャパンディスプレイのコア技術、強みとは

『日の丸液晶』と呼ばれる一方で、「旧個社の不採算事業の寄せ集め」と揶揄する声が多かったのも事実です。

確かに統合の背景を考えると、結果的に不採算による事業見直し末、生まれた会社に違いありませんが、

少なくとも2012年の発足当時の段階では、ディスプレイ産業のリーディングカンパニーとしての優位性はあったと思います。

現在主流となっている液晶ディスプレイ(特にスマホ)のコア技術には、

実は、日立、東芝、ソニーが長年温めてきた技術が用いられています。

スマホ向け液晶パネルの多くは、駆動素子には低温多結晶Si(LTPS)TFTが、表示方式にはIPSモードが採用されています。

LTPS TFTはキャリア移動度が100cm2/Vs以上と高く、画素を高精細化しても開口率を確保しやすく、スマホのような小さい画面で、より高精細な表示性能が必要なデバイスには不可欠な技術です。

※従来の所謂a-Si TFTはガラケーや、カーナビ等に使用されていましたが、キャリア移動度が1cm2/Vs程度だったため、スマホやHDクラスのテレビ等、高精細化が必要な用途には不向きだったのです。

一方、IPSモードは、液晶分子がガラス基板と水平方向に回転するため、指などでガラス基板に圧力をかけても液晶分子の配向に与える影響が少なく、タッチ入力との相性が良い事に加え、視野角が非常に広いという利点があります。

LTPS TFTは東芝が1997年に、IPSモードは日立製作所が1996年に実用化した技術であり、まさに現在のスマホ用ディスプレイを支えるコア技術となっています。

ソニーの固有技術であるPixel Eyesは従来主流だった外付け方式のタッチパネル機能を液晶セル内部に組み込む、インセルと呼ばれる技術で、この技術も現在のスマホにはなくてはならないものとなっています。

※ただし、インセル技術にも色々あり、JDIが押していたPixel Eyesは、現在では中韓メーカが使っているAIT方式に対して劣勢となっています。。)

 これら液晶技術は、2010年発売の米Apple社の「iPhone 4」が大ヒットしたことがきっかけで、一気にブレイクすることになります。

「スマホ向けは儲かる!」と分かると、こぞって韓国や台湾の液晶パネル・メーカー各社も中小型液晶パネルへのシフトを始めましたが、

元々、東芝モバイルディスプレイ、ソニーモバイルディスプレイ、日立ディスプレイズなどの国内液晶パネル・メーカーで、長年、技術開発と製造ラインへの投資を進めてきていたため、JDI発足当時は、まだ技術的に優位な立場にありました。

ジャパンディスプレイが没落した理由

スマホ特需が見込める2010年代初めに、技術的な優位性を以て、スタートできた所までは良かったのだと思います。

では、なぜ発足からわずか8年の間にここまで没落してしまったのか。理由を考えてみました。

ポイント

①JDI独自の技術・製品を生み出せなかった

②Appleに振り回された経営陣、白山工場の建設

①JDI独自の技術・製品を生み出せなかった

前項で紹介した旧個社それぞれが温めてきた技術は、確かに、スマホ特需に対して非常に優位性の高い技術でした。

その優位性をフルに活用して、韓国・台湾メーカーがキャッチアップする前に先行者利益を得る作戦は間違えじゃなかったと個人的には思います。そうするしかないから。

この業界はいかに早く技術開発を進め、新技術で先行者利益を掴むかが重要だと思っています。

ただ、その先行者利益が得られている間に、JDIが独自に新しい技術・製品を立ち上げる事ができたか?というと答えはNOです。

旧個社から引き継いだ技術の貯金を切り崩していくのみで、新たな技術・製品開発に資金やリソースを振り当てなかった事が、JDI没落の大きな要因だと思います。

『液晶の次は、液晶』

当時のJDI経営幹部の言葉が物語っています。

液晶でキャッシュを生み出せていた発足当時に、OLEDにリソースをシフトできていれば、、

現在立上げようとしている指紋センサー等、液晶から脱却しようとするマインドが当時からあれば、、

※現状、OLEDの縦型蒸着というJDIとマクセルの共同開発技術がようやく立ち上がりましたが、中国メーカのOLEDが既に立ち上がったこの段階で議論するのは遅すぎます。

発足当時、iPhoneブームでスマホ用液晶ディスプレイの需要を右肩上がり、目先の仕事で手一杯だったことは理解できますが、

経営陣はもう少し、長期的なマインドで舵取りできなかったのか。悔やみきれません。

Appleに振り回された経営陣、白山工場の建設

よくも悪くもAppleに依存しすぎた末路が、今の経営状況だと思います。

ただし、「振り回された」は語弊があるかもしれません。

JDIに限らず、日本にはアップルへ部品供給しているサプライヤーが数多くあり、実際に利益を出している会社もあります。うまく付き合えば良いお客さんなのかもしれません。

ただ、ディスプレイのようにデバイスの顔となる部品をJDI、LG、シャープに競わせ買いたたくというそのスタンスが気に食わない。アップルの利益のほんの数%をサプライヤーに還元できれば、多くのサプライヤーが救われると思うのですが。

(損益計算書見ましたが、粗利が3~4%しかない。どれだけ厳しい業界なのか、どれだけ鬼のような客しかいないのか経営陣の心中お察しします。)

でもまあ資本主義ってそんなものですよね。。悲しい😢

とにかく、アップル神話が永遠に続くと思い込んで、売上ばかり追い求めた経営陣の判断ミスは、咎められてもしかたないように感じます。

アップルの旺盛な需要を見込んで、機会損失を避けるために白山工場を建設を決めるわけですが、その直後にアップルからLCD→OLEDへのシフトの意向を伝えられるという、OLEDの量産実績がないJDIにとっては最悪の展開。

挙くの果てには債務超過を避けるために、ようやく減価償却も終わり、やっと儲かる工場になった能美工場も、たったの200億で叩き売りしてしまう始末。

『白山工場建設がすべての元凶』といっても過言ではないかもしれません。

白山工場がなければ、アップル向け製品は、茂原工場と能美工場で十分に供給できていたでしょう。

※ただ、長年液晶業界に従事している人間がこのような無謀な投資をするとは、いささか思えないのです。。

例えばINCJ主導で、なんらかの思惑があり、白山工場の建設を後押したのでは?だとしたら責任は非常に重い。

ジャパンディスプレイの今後について

いちごアセットによる融資、および白山工場の売却によって債務超過を抜け出したジャパンディスプレイですが、決して状況は芳しくないと考えます。

過剰設備と人員の整理はできましたが、そもそもの儲からない事業体質は何一つ変わっていないからです。

比較的堅調な車載向けディスプレイも、近いうちに中国メーカの台頭に飲み込まれるでしょう。

VRやウェアラブル端末向けは今後需要の拡大が見込めますが、モバイル向けや車載向けの売上減少分をカバーできるほどの事業規模にはならないと考えます。

そうなるとやはり、IR資料にある通り、現在立上げ中のセンサー事業を皮切りに、ディスプレイ以外の飯のタネを探す。もしくは、例えば半導体エネルギー研究所のように研究開発に特化し、ライセンス料で稼ぐ仕組みを構築するしかないのかもしれません。いずれにせよ前途多難です。

債務超過を脱した今こそ、大きく舵を切る最後のチャンスだと思います。

ぜひ経営陣の英断を期待したい。

個人的には、少なくとも経済産業主導で、車載向けのディスプレイ事業は、日本の自動車メーカと提携し、お抱えの部品メーカと同じ括りにできないものかと思っています。(独禁法等で無理なのでしょうか??)

INCJは、ここまでの状態に陥った原因の片棒担いでいるのだから、それくらいやってもいいのでは?

最後に

今回、経営再建中のジャパンディスプレイについて記事を書かせていただきました。

冒頭、「浅からぬ縁」と書きましたが、実は筆者が旧個社時代にお世話になった方が、JDIで奮闘されています。

もう長い間お会いしていませんし、筆者自身、転職し、今は全く異なる業界で働いていますが、

JDI発足当初にその方とお会いした際には「とても優秀で、仕事に対して熱心な方が多い。すごい会社になると思う」と熱く語っていました。

その方は、旧帝大卒業後、旧個社の本体に入社し、液晶ディスプレイの黎明期を支えてこられた技術者で、すこぶる頭が良くて、仕事ができる方でした。そんな優秀なエンジニアが声を弾ませて語るJDIという会社は、果たしてどんな会社になるのか、私も楽しみにしていました。

今の惨状は非常に残念で、悔しい思いもあります。

難しいとは思いますが、何とか立ち直ってほしいと心から願っています。

液晶ディスプレイは20世紀最もブレイクし、世界中の人々に感動を届けてきた素晴らしい製品の一つだと思います。

JDIに残っている社員の方には、自分たちがその礎を築いたエンジニアなのだという誇りを忘れず、再建に向けて頑張っていただきたいと思います。

一方で、国や、他業界の企業経営に携わっている方たちは、この惨状を他人ごとと捉えないでほしいと思います。

すでに自動車業界でもガソリン車→電気自動車へのシフトに際し、各国で覇権争いが始まっています。

明日は我が身。

可能性は低いですが、扱う製品が異なるだけで、例え天下のトヨタでも、この勝負に万が一負けるような事があれば、今まで気づきあげてきた優位性が一気に崩壊する事もあり得るのです。

今回の件が、単なるワイドショーのネタとして消化されるのではなく、日本経済界全体として、二度と繰り返してはいけない教訓として語り継がれていく事を願っています。

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